吉葦有梨 よのなかのこといろいろ

よしとあし、ありとなし

第百七十三話 ムーンリバー

ホテルの星観測ツアーに申し込んだ。
「本日も明日もキャンセル待ちになります」と言われ諦めていたが、
昼過ぎ、空きが出たとのこと。
7時からの夕飯も早めにしてもらって、ウキウキと星観測に備える。
が、食べているうちに雲がわいて出てそれまで雲一つなかった空がほとんど曇り空に。


足取りも重く集合場所へむかう私たち一家。
かなりたくさん人が集まっている。
案内人のおじさんは「星一徹」を名乗ったがそれで笑うのは50代以上では…。
「雲が出ていますが、流れが早いので、全然見えないことはないです。
見えているところから解説して行きます」本当かなぁ、本当ならいいけど…。


浜辺へ向かう途中、ヤドカリの大群に出くわす。「ここだけヤドカリ観察ツアー」だそうだ。
まだ目が慣れていないので、大変。よく見えないので、貝とおぼしきものを拾ってみる。
白い巻き貝を裏返すと確かにヤドカリがもがいている。後ろの男の子に手渡してあげた。
もっと大きなサザエくらいのヤドカリもいたらしいがそれはわからなかった。


浜辺で用意されていたデッキチェアに寝そべると
おぉ!雲の晴れ間にはめ込んだようにさそり座が!
ここは石垣島、さそり座が空高い!


そのさそり座も雲から出たり入ったり、
さそり座、射手座、夏の大三角形おとめ座のスピカ、
隣に地味に光る土星、これは天体望遠鏡で輪を見せて貰う。
今は輪が楕円型にしっかりと見え、
小さいけれどイメージ通りの土星、夫も次女も感動している。


そうこうするうち、南の空が晴れ渡り、天の川が見える。
最初は雲なのか天の川なのかわからないくらいだったが、
目が慣れると射手座から織り姫彦星の間を隔てる白鳥座へとしっかりとたどることができる。
双眼鏡が廻ってくる。無数の星がまたたいている。


「もうすぐ月が上ったら天の川は見えなくなっちゃいます」
見ると東の空が半円型に明るい。満月から二晩経った立待ち月。
時間を惜しみ、てんびん座(初めて見た!)、
やぎ座(これはよくわからなかった)、
矢座(大好きな星座、本当にうっすら)、
北斗七星と北極星(あまりに低い位置にあるので見間違いしていた)、
人工衛星に飛行機、流れ星(私は三度見逃す)を教えてもらい、
講義はなかったけれど素晴らしく大きなへびつかい座を楽しむ。


「あぁ、月が上って来ました」不気味に赤い月の上半分が見えた。
見る間に下半分も姿を現し、確かに明るい。
闇に慣れた目には周りの人の顔までわかるくらい、これなら明かりがなくとも歩ける、
そのかわり見える星の数はぐっと減ってしまう。
でも幸いなことに水平線近くには雲があり月を隠してくれてる。
隠れると暗くなる。歌舞伎でよく見たシーンだ。
出たり入ったり、この雲には随分と助けられた。


お開き後、希望者は星を背景に記念撮影となる。
順番を待っていると月が雲から出る。海に月が映って水平線からラインが続く。
これがムーンリバーだ。


ムーンリバーは1マイルより幅広い」中学の音楽の教科書に英語歌詞が載っていた。
ムーンリバーってどこにあるんですか?」
「なんで1マイルより幅広いんですか?」
ハックルベリーフレンドってトム・ソーヤの友達と関係あるんですか?」
英語の先生に質問してみたが、どうも先生もわかんないだってことがわかっただけ。


ハックルベリーはどうやらトムの幼なじみでよいようだが、
ずっとムーンリバーへの疑問は頭のすみっこに残っていた。
それが数年前ホセ・カレーラスの「ムーンリバー」を聞いていると突然閃いたんである。
そういえばその教科書には満月と水平線から続く光の筋が描かれていたっけ、なーんだ。


記念撮影はカメラのシャッターを10秒解放、
こちらの姿は小さなペンライトで照らしているだけ。
じっとしていたつもりだったけど夫と私の顔はぶれてるみたい。
背景の星空はさそり座に射手座、天の川、
小さなモニターでもその素晴らしさはわかる。データで送ってもらうことになっている。
とても楽しみだ。


帰り道、北斗七星の方に白い光が花火の最後のきらめきのように消えていった。
あまりに明るかったので流れ星と思わなかったくらい。
流れ星というよりは火球というやつ、きっと隕石として地球のどこかにたどり着いてる。


高校2年の次女は誕生日前日17歳、18歳未満の小人料金だった。
解散時、お子様だけに星をかたどったテープ細工をいただく。本来草で作ったものだそうだ。
12本の角が出ていて対角の角ではさみ、吹いてやるとクルクルまわる。
今宵は次女にはいろいろといいプレゼントとなった。
どうもありがとうございました。とても楽しかったです。


南の島の星空ツアー|石垣島スターガイド
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