吉葦有梨 よのなかのこといろいろ

よしとあし、ありとなし

五十日目 月に向かって走る

帰りの車の中、信号待ちでちょっと左手を見ると
ビルの谷間に今昇ったばかりの下弦の月があった。
       *
大きな大きなうっすらと黄色みを帯びた月、
くっきりと形よく立って狼がほえるのによさそう。
満月でないので狼男は変身しないけれど。
       *
昔は地平線近くのやたらと大きく見える月が
なぜだかこわくてたまらない、
それなのに、どうしても目が引きつけられる
そんなだったのだけれど、
ここ数年の間に夜走ることが増えて、
山際の月を見ることが多くなった。
いつしか慣れて恐怖は感じない。
だから、心おきなくつくづくと眺められる。
つくづくと眺めると地上際の月はとてもとても美しい。
       *
高速にあがると進行方向に月がある。
月に向かって走る。
走ると生駒山が近づいてきて、
月は山の端にめり込んで沈んでしまった。
この場所では月の出はまだなのだ。
       *
「今、月があがったばかり」
そういうラインが地図上に引けるのだな。
そう考えると生駒の麓にラインを引きに
走ってみたくなるが、
よく考えれば、そうするうちにも
月は昇り続ける訳で一人では絶対ムリだろ。
でも、生駒の西側に月が昇る等高線みたいなものが引ける
そう考えるだけでなんだか愉快。
愉快なままでそのままトンネルにつっこんだ。
お月様今夜もありがとう。